地方自治体と Facebook と個人特定に関する話

もふもふあげさん ネット
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図書館絡みの問題を経由して、佐賀県武雄市のサイトが Facebook への移行をしたことに関しても少し興味が湧いた。自治体のサイトが Facebook に移行するとされたのは 2011 年8月1日なのだけど、当初の予定では『旧サイトを捨てての完全移行』という話だった [01] 。しかし過去のコンテンツである記事等はさておき、申請書類のダウンロードは現在も元のサイトから行う必要があるわけで、どこが完全移行なのかは未だに不明。

完全移行というのであればすべてが Facebook で完結されるべきだと思うのだけど、そのようなことにはなっていない。そもそも、第三者からも信頼されるであろうドメイン ( takeo.lg.jp ) を捨てて Facebook ( www.facebook.com/takeocity ) を利用しようとするのがよくわからない。勘違いして https://www.facebook.com/takeo へアクセスすると、とある個人のページへジャンプしますし。

Facebook が独自ドメインを利用できるサービスでも開始していたのであればまだ良いとは思うのだけど、現状ではあまりにも間抜けな状態となっている。さらに言えば現状、重要な情報に関しては iframe で旧サイトが表示されている状態で、しかもその旧サイトの上部には Facebook 移行の告知バナーが張られているために激しくカッコワルイ状況になっているわけです。

他にもいろいろと……それはもういろいろと突っ込みたいところはあるのだけど、それはもう横に置くし書くなら別のエントリにするかもだけど、ともかく今回は地方自治体が Facebook を使うとはという話。

武雄市の人口は 2010 年のデータによれば 50,715 人 [02] 。詳細な人口統計のデータは 2005 年のものになってしまうのだけど、当時の人口が 51,497 人で就労人口(15〜64 歳)は 31,037 人とのこと [03] 。これを踏まえて 2012 年の現在に当てはめて推測するに、人口は減っているだろうし多めに概算しても就労人口は 30,000 人いれば良いという程度ではないかな。そういうわけで 30,000 人という人数がどれほどのものか一応調べたのだけど、球場に当てはめてみると以下のようになる。

  • 甲子園球場 47,757 人(内野 28,714 人 / 外野 19,043 人) [04]
  • 東京ドーム 55,000 人 [05]
  • ヤフードーム 38,561 人 [06]

武雄市民全員が東京ドームの座席に座ることができて空席が 5,000 人分以上ある。武雄市の就労人口は甲子園球場の内野席に座って、若干外野席にも流れる程度。これでまぁまぁ想像はできるかな。私は今年5月東京ドームで開催された YUKI の 10 周年ライブに行ったのだけど、外野スタンドは未使用でグラウンドがアリーナ席となって公表約5万人の観衆。

YUKI のライブ時の話 [07] だけど1塁側2階席にいた私にも、ライブ最後の観衆が静まり返ったドームにて外野センター位置からマイク無しで叫ぶ「ありがとう!」という彼女の声は聞こえましたね。数万人規模というのはそういう感じ。

そういう規模の自治体が、実名主体のネットサービスを使うとどうなるか。武雄市の議員定数は現在 26 名。職員数は 2010 年のデータによれば 409 人 [08] 。就業人口(外に出て社会的活動をしているであろう方々)比率を考えるに、『友だちの友だち』や『知人の家族や親族』、『同僚や上司、友人の知人』という2ホップで市政関係者へ簡単に繋がりそうな状況ですね。企業によってはダイレクトなパターンが普通にあるでしょう。

現状の議会においては市長派が圧倒的人数 [09] であること、複数名の職員が Facebook にて市長発言に賛同を示す『いいね!』をしているところ。こういうことを考えてみるに、市政における Facebook 採用というのは、味方と敵を簡単に洗い出すリトマス試験紙的役割があるということがよくわかります。一般人においても関係者に2ホップ程度で繋がるとなれば、何かしらの行動を行ったとして、すぐさまそれに対してのアクションがあるであろうことは想像しやすい話になります [10]

昨年の 12 月にばけらさんが以下のように書いている。

 なんと、実名利用にしたかった、というのが動機なのだそうで。Facebookに移行という話自体は面白いと思っていたのですが、こんな動機だったとは……。「実名でコミュニケーションしてほしい」と言えば聞こえは良いでしょうけれど、それはつまり、「実名を名乗れない事情のある人は市のサービスを利用するな」ということですよね。

 実名を名乗らないと利用できないサービスもあるでしょうし、そういうサービスで名乗れというのは分かります。しかし、この話はそうではありません。市政に何か問題があると思ったとき、匿名で指摘されることを防ぎたいという話です。要するに、匿名のクレームを封殺したいという話でしょう。

{中略}

 やはり、返答がしたいのではなく、匿名のクレームを封殺したいのだと受け止めざるを得ませんでした。

武雄市Facebook化の動機は実名利用にしたかったから | 水無月ばけらのえび日記

人口の少ない地方自治体においての実名至上主義というのは、(少なくとも)日本の風土や慣習においてはマイナスにしか動かないような気がします。イエスマンを集める仕組みにしかならない。このような事例が『世間に向けての先進的事例として好意的に受け取られる』ということがあってはダメなんじゃないかと考えていたりします。運用や対応その他諸々を含め、理想的な(何が理想なのかわからないけれど)状況になっているとは思えない。

基本的なところに立ち返って、自治体が Facebook を利用するというのはどうなのだろう。武雄市の事例を見ていると、とても良いとは思えない。『読みにくい』『わかりづらい』『アクセシビリティ無視』『対話できると言って実は対話しないケースがある』『旧サイトを捨てられない』などなど。どこかで市長は「無料で使える」などと書いていたかと思うのだけど、お金は使うべきところでは使うべきなのではないかな。

内容が散漫としてきた。あまりにも多岐に渡る書きたくなることが多過ぎるのだ。武雄市の事例は後世に残る失敗の数々として語り継がれるようになれば良いと(わりかし本気で)思っている。他の自治体が情報発信と市民とのコミュニケーションを考える上では参考になると思われる。諸手を挙げて「Facebook!」などと言ってるヤツの言うことは信用しない方が良い。本来あるべき市民の利益とやらをもう少し考えるべきだ。

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