ペットロス理髪店


昼過ぎに駅へ向かう途中、贔屓にしている理髪店の従業員(店長の息子)とすれ違った。いつもなら会釈程度で分かれるのだけど、はっとした顔をしてこちらに向かってやってくる。

そうして開いた口から洩れた言葉は「今朝Cちゃんが死んじゃったのだけど、明日お寺で焼いてもらうことになっていて、でも今はお店にいるので見てもらえませんか」。

Cちゃんというのは飼い猫のことで、今のビル内に移転する前の店舗では看板猫の1匹としてご近所をうろつていた子。前店舗に通っていたときは待ち時間によく遊んでいたので、見せてもらえるならばと足の向きを変えた。

ビルのエレベータから降りてお店に入ったら、レジ前に下を向いて涙目の店長。「見にきたよ」と声を掛けたら、台の上に置かれたCちゃんの入ったかごを見せてくれた。ピンクの花が添えられて本当に眠っているよう。店長はお客さんの相手をしなければならなかったので、一人でしばしCちゃんを撫でていたのだけど、バックルームに奥さんもいたはずだと顔を出してみた。

涙目状態でちょっとやつれた感じの奥さんも果たしてそこにいた。「見にきたよ」と声を掛けたら表に出てきたのだけど、かなり弱っている様子。

話をすればCちゃんも23歳。斉藤式で人に換算すれば114歳。病気で苦しんだわけでもなく、老衰で天寿を全うしたとのこと。用事を済ませてお店に戻ってきた息子に聞けば、最後に一言「にゃぁ」と喋ったらしい。

撫でていると毛並みの感触は以前に触った時とあまり変わらないのだけど、体温がね、ないの。それで居なくなってしまったことを実感する。何の縁だかわからないのだけど、よくもまぁあそこで息子とすれ違ったものだよなと不思議に思う。Cちゃんには最後に「お疲れ様」と声を掛けた。

去り際、息子に冗談で「2ヶ月くらい店閉めますかね」と言ってみたら「旅に出たい」と返されて困った。それでもお店の中ではにこやかにしてないとダメだってのが伝わってくるのだけど、実のところはなかなか厳しい。

お店を出たら、駅に向かうための通りの信号は青。車が来ないから斜めに突っ切っていつもの路地に入ったところで、鼻水が出始めた。2枚の丸くなったポケットティッシュは上着の右ポケットに突っ込んだ。

人様の家の猫でこれじゃ先が思いやられる。