西東京市で行われた勉強会に参加した時に聞いた関係者の発言が、あっという間に全国区レベルのニュースになったのは少し驚いた。発端となったのは以下の部分。
とある方の報告で「武雄市某中学校において、武雄市図書館は『商業施設である』ということで下校時には寄り道禁止というお触れが出た」という話がとても印象に残りました。
上記に関していろいろなところで賛否両論の意見が飛び交うことになったのだけど、武雄市図書館の特殊性を認識しないまま「図書館に学生が行けないなんておかしい」とする意見も散見されていて、さすがにそれはちょっと待ってと思ったりしたのです。
武雄市図書館に関しては現在の施設をオープンするにあたり、その思想やコンセプトが提示されていました。『武雄市とカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社の武雄市立図書館の企画・運営に関する提携基本合意について』より引用。
■提携により武雄市図書館にて実現する9つの市民価値
1.20万冊の知に出会える場所
2.雑誌販売の導入
3.映画・音楽の充実
4.文具販売の導入
5.電子端末を活用した検索サービス
6.カフェ・ダイニングの導入
7.「代官山 蔦屋書店」のノウハウを活用した品揃えやサービスの導入
8.Tカード、Tポイントの導入
9.365日、朝9時〜夜9時までの開館時間。
上記における2・3・4・6が商業施設部分に相当する箇所です。9つの市民価値とされる部分のうちの4つが図書館とは関係のない部分。そもそも代官山蔦屋書店に感銘を受けたらしい武雄市長なので、ここに「図書館とはなんぞや」という思考はなかったでしょう。そうして協力をお願いしたとされる、CCC増田代表取締役の発言が以下です。
今は行政の方があちこちから毎日見学にいらしていて、「うちでもやってくれ」「見に来てくれ」と、行列をつくっている状態だ。僕らがやるとコストが下がるというのもある。すべてセルフPOSだし、実際には本のレンタル屋だ。要するに「図書館なんてものはない」と(会場笑)。名前は図書館だが、本のレンタル屋だ。
ここで、ネット上にて公開されている武雄市図書館の館内マップを見てみます。
これでははっきり言って、どのような構造なのか把握できません。図書館のサイトにはストリートビューも用意されているので、そちらで把握するしかありません。ストリートビューでチェックすればわかりますが、商業施設部分と図書館の間には明確な仕切りはなく、シームレスな構造になっていることは理解できます。
先日の勉強会では別途資料が配られたのですが、実際にどのような感じになったかという注釈付き館内マップは以下になります。
上記を確認すれば一目瞭然となるのですが、武雄市図書館は出入口の両端にスターバックスやTSUTAYAレンタル、そして書籍販売コーナーが設置されている状況になっており、そこを通過しないと図書館への出入りはできない状況となっています。
例えば東京には『千代田区立日比谷図書文化館』という図書館があるのですが、こちらもカフェやレストランは存在しています。ですが、『施設案内|千代田区立日比谷図書文化館』で俯瞰し『カフェ、ショップ|千代田区立日比谷図書文化館』を確認すると、図書館の出入口からは遠いところに位置し、かつカフェ等にも出入口のある隔離スペースであることがわかるかと思います。
むろん他にも飲食スペースが用意された図書館は存在するのですが、そのどれもが主従関係でいうところの『従』にあたる施設となっているわけです。あくまで主体は図書館であり、その他のサービスはそれに付随するものというイメージです。
ところが武雄市図書館は違います。新装オープンするにあたり商業施設の存在が必須となっており、それらがなければ存在そのものが否定される施設となっているわけです。
そうしてさらなる問題は、座席に関すること。商業施設とシームレスな結合を見せる武雄市図書館ですが、スターバックスの商品を買わないと座ることのできないスペースが存在します。現在スターバックスのサイトで確認すると、その座席数は108となっています [01] 。こちらの数字、館内共有席を含む数字となっていますが、この座席のシステムが二転三転するようなこともあり、正直なところよくわかりません。
座席に関しては今年5月に電話で問い合わせをしていますが、その時のエントリは『スターバックス蔦屋書店武雄市図書館店に電話したよ | 脳無しの呟き《土鍋と麦酒と炬燵猫》』になります。
何にしても、スターバックスの商品を購入しないと座ることのできない座席があるということで、『千円図書館』という言葉までができたくらい。そのような状況や背景、そして運営に関するコンセプトや実際の施設の構造。これらを鑑みるに、武雄市図書館を『商業施設』と判定して学校のルールに当てはめたという県立武雄青陵中学校の判断に間違いはないと考える次第なのです [02] 。
なお、ここでの判断というのは『武雄市図書館を商業施設判定した』という事実であり、『商業施設への学生の立ち寄りを学校が禁止して良いのかどうか』という議論とは別次元の話になるということも理解しておかないといけません。
誰も『図書館へ行ってはいけない』と言っているのではなく『商業施設への寄り道禁止』というルールがあるのであれば、そのような対応をする学校もあるでしょうという話です。県立の学校の運営方針に武雄市の市長が首を突っ込むというのはどうかという話もありますが、そこは割愛。
個人的には現在の商業施設配置に関しての問題として、子供への対応がどうしようもないと考えていたりします。というのも、児童書コーナーへ行くにあたりの最短ルートは書籍販売コーナー横を通り抜けることであり、さらに問題は図書館蔵書の絵本等は高い場所に配架されているにも関わらず、商品としての絵本等は子供が手に取れる位置に配置されているという話を聞いたから。販売する気満々とはこのことです。
学校側が学生の下校時に立ち寄ることを一時期でも禁止したという背景には、そのような事実が存在するからです。ちなみにオープン当初は水飲み場もなかったそうです。何かを飲みたければスターバックスで購入しろということだったのですが、さすがにそれに関しては議会での追及があり、現在ではウォータークーラーが設置されています。
今回の問題は一般的な図書館に対しては、まず発生することのない問題でした。図書館が商業施設かどうかで議論されるということそのものが、前代未聞のことでしょう。だから、現場がどのような状況かは知っておかないと議論ができないのです。
一般的に飲食コーナーがあるから図書館への寄り道禁止とするような学校なぞ、どこにありますか。
そういうわけで改めて書きますが、私はあそこを図書館だとは思っていません。商業施設が表舞台に立っているからというだけでなく、そうすることで図書館としての機能も低下してしまったというレポートをたくさん読んだからということもあります。
以前はあまり力説していた記憶がないのだけど、ここにきて関係者が「図書館であること」を強調するようになってきたというのはとても興味深い話です。そのようなイメージを作り上げたのは、誰でもなくその関係者たちなのに。あそこを図書館だと言い張るのであれば、もっと考えることがあるのではないですかね。
References
↩01 | 『蔦屋書店 武雄市図書館店 | スターバックス コーヒー ジャパン』を参照のこと。 |
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↩02 | 問題となった結果は『武雄市図書館は飲食店? 利用は保護者同伴/佐賀新聞ニュース/The Saga Shimbun :佐賀のニュース』を参照のこと。 |